国内トップクラスの産地
伊豆半島のほぼ中央に位置する伊豆市は、年間雨量3,000〜4,000ミリの天城山系を擁し、豊かな森林と清らかな水に恵まれた山紫水明の地だ。市内の山間部には、筏場(いかだば)、地蔵堂(じぞうどう)、棚場(たなば)、杉本、猫越(ねっこ)、持越(もちこし)、合いの洞(あいのほら)などのわさび産地が14カ所も点在し、国内トップ※のわさび産地を形成している。
※静岡県調べ
伊豆半島のほぼ中央に位置する伊豆市は、年間雨量3,000〜4,000ミリの天城山系を擁し、豊かな森林と清らかな水に恵まれた山紫水明の地だ。市内の山間部には、筏場(いかだば)、地蔵堂(じぞうどう)、棚場(たなば)、杉本、猫越(ねっこ)、持越(もちこし)、合いの洞(あいのほら)などのわさび産地が14カ所も点在し、国内トップ※のわさび産地を形成している。
※静岡県調べ
伊豆エリアのわさび産地は、標高1,406mの万三郎岳を頂点とする天城山系の渓流沿いに広がっている。この地域の水は、天城山系に降った雨水が噴火堆積物である軽石や石英安山岩の層を抜けてきたもので、水量、水温、養分ともに、わさび栽培に最適と言われる。また、堆積物がわさび栽培の作土に適していることも、この地にわさび田が集積した大きな要因となっている。
伊豆エリアのわさび栽培は、1744年に天城山守の板垣勘四郎が駿河国の有東木(現静岡市葵区)からわさびの苗を持ち帰ったのが始まりという説があるが、それ以前から栽培されていたという説もあり、発祥は定かではない。しかし、現在において、農家戸数326戸、栽培面積80haという産地データは、ともに静岡県内最大。その品質も、例年農林水産大臣賞や林野庁長官賞を受賞するなど、国内トップレベルであることは間違いない。出荷先も関東圏、中京圏、関西圏、中国圏、九州圏など、ほぼ全国に行き渡り、知名度も抜群に高い。
伊豆最大のわさび産地は、大見川の上流部に位置する筏場(いかだば)だ。石畳式のわさび田が無数に連なる景観は、静岡県棚田等10選にも選出されている。同地で7代にわたってわさび農家を営む塩谷美博さんに話を聞いた。「筏場のわさび田は、古くから共存共栄の精神で栄えてきた産地。水量や陽射しの条件などで収量に差が出ないよう、常にわさび田をローテーションし、各農家に不公平が生じないように努めてきました。そうした生産システムを早くから地域全体で確立した上で、農家個々が品種に改良を重ねてきた歴史が、今も安定した収量と高い品質を生み出しています」。
塩谷美博さん
わさび栽培はとてもデリケートだ。「ほんのちょっと場所が変わるだけで、生育に差が出るため、各農家はさまざまな品種を生み出し、それらを使い分ける経験と知識を持っています。日々の作業で大切なのは“野まわり”ですね。わさび田には陽射しを適度にコントロールするハンノキ(広葉樹)を植えるのですが、その落ち葉が水路に詰まらないよう、常に気を配っていなければなりません。水の管理はわさび栽培の生命線ですから」と塩谷さんは語る。
天城山系がもたらす清らかで豊富な水。作土に適した火山性の堆積層。地域全体で育んできた生産システム。そして農家個々のたゆまぬ努力と探求心。伊豆地域のわさびは、自然と人の共存共栄によって生み出された奇跡の産物だ。