自然災害を抑制
急峻な山間地は、自然災害に襲われることが多い。しかし、「畳石式」に代表される静岡県内のわさび田は、過去の自然災害からの復旧工事によって自然災害に強い構造を持っている。また、豊富な水を蓄えるとともに水の流れを緩めるため、多量の降雨による河川の氾濫を抑制し、下流域を災害から守る機能を有している。
急峻な山間地は、自然災害に襲われることが多い。しかし、「畳石式」に代表される静岡県内のわさび田は、過去の自然災害からの復旧工事によって自然災害に強い構造を持っている。また、豊富な水を蓄えるとともに水の流れを緩めるため、多量の降雨による河川の氾濫を抑制し、下流域を災害から守る機能を有している。
山間地に階段状に広がるわさび田
自然の力によって水を上段から下段へ流す「畳石式」や「地沢式」は、二酸化炭素を排出しないクリーンエネルギーを利用している。豊富な湧水が絶え間なく流れるため、肥料や農薬もほとんど使わず、環境への負荷は、極めて低い。それゆえにわさび田周辺は、豊かな自然環境を保持し、高い生物多様性も生み出している。
水深が浅く、溶存酸素が豊富なわさび田には、清流を好む水生動物が数多く生息している。その中には、わさびを食害するオナシカワゲラやカワニナなども含まれるが、害虫を補食するトンボ類の幼虫やサワガニとともに、わさび田から羽化した昆虫をエサとするカエルやクモ、さらにそれらを捕食するヘビや鳥類も生息する。その意味で、わさび田は渓流域における食物連鎖の基盤になっている。
食物連鎖のイメージ
静岡県のわさび田及びその周辺では、さまざまな貴重種が確認されている。主な種としては、環境省レッドリスト2017で絶滅危惧Ⅱ類に選定されているホラアナミジンニナ、同準絶滅危惧種のモノアラガイ、静岡県版レッドデータブックで絶滅危惧Ⅱ類に分類されているハコネサンショウウオ、イワヤシダ、ユノミネシダなどだ。伊豆半島が種の分布の東限とされるハイコモチシダなど貴重なシダ類も多く生育している。こうした貴重種をはじめ、生物多様性に富んだ生態系がわさび田周辺に息づき、豊かな自然環境の保持に役立っている。
ハイコモチシダ
ハコネサンショウウオ
わさび栽培は、栽培適地が限られる上に、日当たりなどの立地条件によって収量が大きく異なる。収量の差は、トラブルの種になりやすいため、江戸時代の伊豆地域では、わさび田を共同で管理する「郷沢(ごうざわ)」と呼ばれる形態が生まれた。現在も伊豆地域の一部に同様の共同管理システムが「合沢」として残り、複数人で共有するわさび田の耕作者を入札で決める方法、複数のわさび田を複数のグループでローテーションして管理する方法などが採用されている。このような共同管理システムは、静岡県内各地に見られ、地域コミュニティを育てるとともに、わさび栽培に関する技術や知識の伝承、災害復旧時の共同作業などにも生かされている。また、グループによる共同管理は、限りある資源を守り、周辺環境を維持していく役割も担っている。